Take a look at international "photobook" awards.
写真集は、写真そのものだけを見るものではありません。
一冊の本ができるまでには、さまざまな工程があります。写真の並び(シークエンス)を考えて編んでいったり、写真に合う紙を探したり、判型を考えたり。予算によってハードカバーにするかソフトカバーにするかを考えることもあれば、個展に合わせて完成させたい、という時間の問題もあります。
ほとんどすべてを自分でやってしまうような熱量でつくられた本もあれば、編集者やデザイナー、印刷・製本に携わる人たちと一緒につくることで、自分一人では表現できなかったものが形になることもあります。
そうして出来上がった一冊の本そのものを見て、評価する賞があります。
特に海外の写真集については、毎年あまりにも多くの本が出版され、自分の手元まで入ってくるものはほんの一部です。
アートブックフェアへ行くと、そのことがよくわかります。
SNSから流れてくる情報も、世界でつくられている本のほんの一部。すべてを知ることはできません。
だから、写真集を探す入口のひとつとして、写真集賞を手がかりにしてみるのも面白いと思います。
そこから、その年にどんなテーマや表現が生まれ、どんな本が評価されているのかも、少し見えてくるかもしれません。
毎年、世界各地でさまざまな「写真集」賞が発表されています。
写真作品や写真家そのものを対象にするのではなく、編集、デザイン、印刷、紙、サイズ、ページをめくる順番まで含めた、書籍として完成した一つの作品に賞が与えられるものです。
出版社から刊行された本もあれば、作家自身の手でつくられた少部数の本や、まだ出版されていないダミーブックが対象になることもあります。
同じ写真集でも、何を評価するかは、その賞の性格や審査方法、審査員によって少しずつ違います。
そして、写真集を探す入口は正式な賞だけではありません。
年末になると、写真集専門店や新聞、写真家、編集者、コレクターなどが、それぞれ「今年よかった写真集」を紹介します。Instagramにも、写真集コレクターが個人的に選んだ年間ベストがたくさん流れてきます。
今回は、現在の写真集を知る入口として、代表的な写真集賞と、こうした年間ベストを見てみます。
写真集を対象とする賞
- Paris Photo–Aperture PhotoBook Awards
- Les Rencontres d’Arles Book Awards
- Dummy Award
- MACK First Book Award ※現在は終了
書店やコレクターのその年の写真集ベスト選書
- photo-eye
- The New York Times
- moom bookshop
- Tokyo Camera Style / John Sypal
Paris Photo–Aperture PhotoBook Awards
Paris PhotoとニューヨークのApertureによる写真集賞です。
2012年に始まり、現在は、初めて出版された写真集を対象とするFirst PhotoBook、その年を代表する写真集を選ぶPhotoBook of the Year、展覧会カタログなどを対象とするPhotography Catalog of the Yearの3部門があります。
世界各地の作家や出版社から本が集まり、受賞作だけでなくショートリストを見ることで、その年の写真集の流れを知ることができます。
Paris Photo–Aperture PhotoBook Awards 公式ページ
過去の受賞作には、文福でも扱っているÓscar Monzón『KARMA』があります。2013年のFirst PhotoBook Award受賞作です。
夜の街を走る車と、その車内にいる人々をフラッシュで捉えた作品で、反復するイメージやページをめくる速度、造本まで含めて一冊の作品になっています。
Les Rencontres d’Arles Book Awards
フランス南部アルルで開催される国際写真祭、Les Rencontres d’Arlesによる写真集賞です。
現代の写真作品集を対象とするAuthor’s Book Award、写真史や写真家について研究した書籍を対象とするHistorical Book Award、写真と言葉の関係を評価するPhoto-Text Book Awardの3部門があります。
写真作品そのものだけでなく、写真史や文章との関係まで含めて本を評価しているのが特徴です。
同じ写真集賞でも、Paris Photo–Apertureとは少し異なる角度から、写真と本の可能性を見ることができます。
Les Rencontres d’Arles Book Awards 公式ページ
Dummy Award
まだ出版されていないダミーブックを対象にした写真集賞です。
かつてKassel Dummy Awardとして知られていた流れを引き継ぎ、現在はドイツ・ケルンのThe PhotoBookMuseumなどによって運営されています。
写真の順番、サイズ、紙、ページ構成、製本など、「この写真をどんな本にするのか」という本の設計そのものが評価されます。
選ばれたダミーブックは各地を巡回し、受賞作の一部は実際の出版へとつながります。
完成した本を評価する賞とは違い、写真集が生まれる途中の段階を見ることができるのも、この賞の面白さです。
MACK First Book Award
ロンドンの出版社MACKが2012年に始めた、新人作家を対象とする写真集賞です。
これまで本を出版したことのない作家を対象に、受賞者がMACKとともに写真集を制作・出版するという仕組みでした。
すでに完成した本を選ぶのではなく、まだ出版されていない作品を見つけ、編集やデザインを通して一冊の本へ育てていくところが特徴です。
賞は2021年を最後に終了していますが、写真集出版と新しい作家を結びつける取り組みとして、過去の受賞作を辿るのも面白いと思います。
賞ではない、「今年の写真集」
写真集を探すとき、賞の受賞作だけを見ているわけではありません。
年末になると、写真集専門店やメディア、写真家、編集者、コレクターなどが、その年に印象に残った写真集を紹介します。
正式な賞とは違って、決まった審査基準はありません。
だからこそ、誰が何を選んでいるのかを見るのが面白いと思います。
photo-eye
書店・ギャラリー
アメリカ・サンタフェを拠点とする写真専門書店・ギャラリーです。
長年、写真家や編集者、キュレーターなどによる年間ベストを紹介してきました。
ひとつのランキングを決めるのではなく、複数の選者の視点を並べることで、その年の写真集をさまざまな方向から見ることができます。
The New York Times
新聞・オンラインメディア
写真集専門の媒体ではありませんが、The New York Timesでも、写真に関わる書き手による年間の写真集選書が組まれてきました。
専門書店とはまた違い、批評や一般メディアの側からどんな写真集が選ばれているのかを見ることができます。
The New York Times Photography
moom bookshop
書店
台湾・台北の写真集/アートブック専門店です。
世界各地の独立系出版社による写真集を扱い、日本の本も数多く紹介しています。
サイトでは作家や出版社、刊行年、地域などから本を探すことができ、moom自身によるRecommended Photobooksも公開されています。
日本とは少し違う場所から写真集を見ることで、知らなかった本に出会えることがあります。
Tokyo Camera Style / John Sypal
SNS・オンライン記事
Tokyo Camera StyleのJohn Sypalは、2025年に「45 My Favorite Photobooks 2025」として、その年に実際に出会った写真集から個人的なお気に入りを紹介しています。
大きな賞の候補作だけでなく、日本の写真集や展覧会カタログなども含まれています。
こうした個人のリストは、その人自身の好みがはっきり見えるところが面白いです。
45 My Favorite Photobooks 2025|Photo & Culture, Tokyo
写真集は「写真を見る本」だけではない
こうした賞や年間ベストを見ていると、写真の内容だけで本が評価されているわけではないことがよくわかります。
写真の並び方、文章との距離、サイズ、紙、印刷、表紙、製本。
一冊の中で、それぞれがどう結びついているか。
写真集は写真を見るためのうつわではなく、本そのものが一つの表現なのだと思います。
もちろん、賞を取ったからいい本で、受賞していないからいい本ではない、ということではありません。
こうした賞や年間ベストの面白さは、むしろ知らなかった本を探す入口になることです。
一冊の本から出版社を調べ、そのデザイナーを調べ、また別の写真集に出会う。
そうやって本から本へ辿っていくことも、写真集を見る楽しみのひとつです。
ここから、もう少し深く
今回は、代表的な写真集賞と年間ベストを簡単に紹介しました。
今後のJOURNALでは、それぞれをもう少し詳しく見ていきたいと思っています。
Paris Photo–ApertureやArlesの歴代受賞作、Dummy Awardから実際に出版された本、MACK First Book Awardの過去の受賞作。
年末には、photo-eyeやmoom、写真メディア、写真家や編集者、Instagramで発表されるコレクターの年間ベストも横断して見てみたいと思っています。
『KARMA』のように、過去の受賞作で文福に実際にある本については、本を手に取りながら、その編集や造本についても紹介していければと思います。
賞を答え合わせとして見るのではなく、次に見る写真集を探すための入口として使ってみる。
このJOURNALも、そんな入口のひとつになればと思います。