志賀理江子 Lilly
志賀理江子 Lilly
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志賀理江子『Lilly』は、作家が2003年から2005年にかけてロンドンで制作した写真作品をまとめた写真集であり、同時期に刊行された『CANARY』とともに、第33回木村伊兵衛写真賞を受賞した代表的初期作品のひとつである。
本書には、ロンドン東部の公営住宅ダミアンコートおよびトムリンソンクロース団地の住民を撮影した「Lilly / Damien Court」、ロンドン南部カルバート団地の住民を自身の部屋に招いて撮影した「Jacques saw me tomorrow morning」、そして弟を被写体とした初期作「Piano」の3シリーズが収録されている。
異国での生活という不安定な状況のなかで、志賀は被写体との距離や関係性そのものを写真の主題として扱っている。住居空間や団地という限定された場を舞台に、撮る者と撮られる者の緊張、戸惑い、断絶が画面に強く刻まれており、親密さと疎外感が同時に立ち現れる構成が特徴的である。被写体は友人や同居人に限らず、偶然出会った住民へと広がり、撮影行為そのものが他者とのコミュニケーションの試行として機能している。
また、本書では再撮影や演出的な手法が随所に用いられ、記録性とフィクション性が意図的に交錯する。写真は単なる出来事の記録ではなく、関係性や時間を再構成する装置として扱われており、現実と構成の境界を揺さぶる表現が一貫している。黒い背景に人物が浮かび上がるようなイメージや、閉鎖的な空間の緊張感は、志賀理江子の写真表現における重要な基盤を形づくっている。
『Lilly』は、のちの大規模プロジェクトへと展開していく以前の、志賀理江子の方法論と問題意識が凝縮された一冊であり、他者との距離、写真行為の倫理、構成と即興の関係を鋭く提示している。初期代表作としてだけでなく、現代写真における実験的なアプローチを示す重要作として位置づけられる写真集である。
【タイトル】Lilly
【出版元】 アートビートパブリッシャーズ
【出版年月日】2008年 (2刷)
【ページ数】頁付きなし
【大きさ】約21×30×1.5cm、0.95kg
【フォーマット】ハードカバー
【タイトルよみ】リリー
【著者・編者等】志賀理江子/写真、後藤繁雄/編集、中島英樹/アートディレクション・デザイン
【ISBN】978-4-902080-13-1
【状態】中古 並(カバー縁少ヤブレ、三方薄ヤケ)
【付属品】小冊子(帯欠)
【掲載本】
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