日本の写真家・山田なおこによるデビュー写真集『スナック』。
「いらっしゃい。今日はなにかいいことあったみたいねえ。」
そんなひと言に迎えられる場所——スナック。仕事帰りにふと立ち寄り、少しだけ話を聞いてもらい、愚痴をこぼし、ときにママに小さく叱られる。そこは単なる酒場ではなく、人と人とが向き合うための小さな社交場である。
スタジオ勤務、写真事務所でのアシスタントを経てフリーとなった山田は、生活のために働き始めたスナックで「ママ」たちと出会う。強く、厳しく、そしてどこまでもやさしい女たち。客への細やかな気配り、スタッフへの配慮、その背中に宿る覚悟と色気。彼女たちの姿に心を動かされ、「ママを撮りたい」という思いが芽生えた。
そこから始まった10年におよぶ旅。北は札幌、南は石垣島まで、日本列島を縦断しながら各地のスナックを訪ね歩いた。本書には、その中から厳選された164店、計177人のママたちを収録。オールカラー296頁にわたり、土地ごとに異なる空気とともに、等身大の肖像が並ぶ。
スナックは、時代の最先端を走る場所ではない。むしろどこか古風で、取り残されたようにも見える空間である。しかしだからこそ、人が人を支え合い、その土地に根を張り続ける場として機能してきたのではないか。本書はまた、その夜その店に立っていたママたちの衣装や装いを伝える記録でもある。きらびやかなドレス、慎ましいワンピース、髪型や化粧の細部に至るまで、そこにはそれぞれの人生と時代の空気が刻まれている。
一軒一軒に、それぞれの夜があり、それぞれの物語がある。強くてやさしい女たちの肖像を通して、日本の夜の風景が静かに浮かび上がる。
